クエ漁師がいるという愛南町敦盛という集落に向かった。
漁師の名は井田幸雄さん。
湾に浮かぶ自慢の船は、「幸漁丸」と名付けられている。
すぐそばの小屋にクエ漁の道具や縄があった。
ここでは、延縄漁という方法で、クエを獲る。
餌をビニール糸の先につけ、縄でつなぐ。
そのしかけが海底に転がっている状態で、クエが餌にかかるのを待ち、引き上げる。
「今までは42㎏が最高やね。
太ったクエはもっと重くなるけど、
この道具ではそれが限界やね。」
何が釣れたかは、縄をあげている最中に感覚で分かるそうだ。
「クエの場合、腹の空気が水圧で小さくなっとるけど、
急に上げたらおなかが膨らんで浮き輪代わりになって、
ひっくり返るんよ。それで手応えがなくなるんよ。」
クエ漁の秘訣を聞いてみると、意外な答えが来た。
「秘訣はとくにないね。クエ漁は博打やから。まさに、幻の魚。
こっちの思い通りには進まないし、潮次第。タイミングが重要。」
井田さんは堂々と語り、
その姿はこの地域唯一のクエ漁師の誇りを思わせた。
最後に、クエ料理のおすすめを聞くと、井田さんは鍋が好きらしい。
鍋にしたら出汁が出て、野菜が美味くなる。
「クエは皮も内臓も食べられるし、とくに『ぷくっ』としたくちびるやほっぺたがうまいんよ」と、笑顔で語ってくれた。