小雨がしとしと降る六月のある日、伊予灘の漁港を訪ねた。
「うちの鱧は活きが命! 活魚専門の漁協やからね!」
そう笑って語りだしたのは、下灘青年漁業者連絡協議会の魚見会長。
活魚を専門にできる秘密は、
手繰第一種漁業に該当する底引き網にあるらしい。
通常の底引き網は、引き揚げまで約二時間かかる。
ところが、下灘の漁師は浅めの水深と独自の手法で
約二十分で網を引き揚げ、十五時からの競りにすぐにかける。
なるほど、だから魚体を傷めず活きがいい鱧が獲れるのだ!
「水揚げが多い日は、一日で十トン超えるんよ」
魚見さんの話を聞きながら市場へ足を進めると
バシャ!バシャ!と弾けるような水しぶきの音がした。
目をやると、そこにはコンクリートの上を
泳ぐように跳ねている鱧・鱧・鱧…
カメラで捉えるのも困難なくらい、活きがいい。
「鱧挟みって知ってます?」
と魚見さんがある道具を持ってきた。
初めて見るが、これが鱧挟みなのだろう。
鱧の歯は鋭利な上、動きも俊敏。
だから鱧挟みは鱧漁師には必須の道具。
この鱧挟みは地元の鉄工所に特注したそうだ。
その挟みの良さは、
県内の多くの漁協から引き合いがあることから想像できる。
こうして、港で話を聞くうちに、少しずつ雨があがり…
「競りは十九時までやから」と魚見さんは笑い、市場へ戻って行った。